
マイナンバーカードを使い、保険証の資格確認をオンラインで行う制度が2021年3月から始まります。
この「オンライン資格確認」は国のデータヘルス改革の基盤となる仕組みです。医療における事務作業の効率化にとどまらず、電子処方箋の運用基盤としての活用など、日本の医療を大きく変える可能性があると期待されています。
これを受け、kakari事務局では2020年11月24日、本取り組みを主導されている厚生労働省 医療介護連携政策課長 山下氏をお招きし、「オンライン資格確認で日本の医療ITはどう変わるか」と題したオンラインセミナーを開催いたしました。
当日は医師・薬剤師を中心とした1000名以上の医療従事者がお申し込み・ご参加され、大変ご好評をいただくことができました。
本記事では当該セミナーのうち、山下氏にご登壇いただいたパートの一部を編集した上でご紹介いたします。本記事に入り切らなかった、
- メドピア社 代表取締役CEO 石見(医師・医学博士)の講演
- 山下氏と石見との対談
- セミナー参加者からの質疑応答
これらのパートに関しましては、下記のページにてオンデマンド配信を行っております。より詳細な情報をご希望の方は、ぜひ動画にてご確認ください。
>> 【オンデマンド】オンライン資格確認で日本の医療ITはどう変わるか
※ 本記事の内容は2020年11月24日時点のものです。
※ 本記事は厚生労働省による内容確認を受けた後に公開されております。
登壇者

厚生労働省
保険局医療介護連携政策課長
山下 護 氏
平成9年旧厚⽣省⼊省。医政局、保険局など医療⾏政全般に携わったほか、在タイ⽇本国⼤使館、全国健康保険協会へ出向。現在はオンライン資格確認の取り組み全般を主導。モンゴル社会保険庁政策顧問を経て現職。
オンライン資格確認は保険証とマイナンバーカードで利用可能
厚生労働省保険局の山下と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
今日、私の方からは「健康保険証の資格確認がオンラインで可能となる」ということについてご説明いたします。また、この仕組みが基盤となって、今後の医療が大きく変わりうるということをお伝えさせていただきたいと思っております。
(本日ご参加されている方の中には)診療所や薬局を経営されている方がいらっしゃると思います。
普段は慣例で、月初めに健康保険証を確認していると思います。初診の方はもちろん、再診の方でも、その月の最初の来院時に保険証をお預かりし、レセプト請求のために被保険者番号をメモするということです。
翌月の月初に、前月分のレセプトをまとめて請求をしようとすると「この方は○月○日に脱退しています」と請求を拒まれてしまう。このように、せっかくレセプト請求したにも関わらず、保険者から返戻されてしまったという経験がないでしょうか。
この場合、医療機関から患者に電話をするなどし、新たに加入した保険(国保など)の確認が必要です。新しい保険の加入日を確認した上で、レセプトを2つに分けるなどし、改めて請求し直すといったことをされているかと思います。
これって、すごく大変な作業ではないかと思います。
オンラインで健康保険証の資格確認を可能とすることで、この面倒な作業をなくすことができるのです。
オンライン資格確認の利用方法
画像1 オンライン資格確認とは
オンライン資格確認では、大きく2つの活用法があります。
- 健康保険証を使う
- マイナンバーカードを使う
まず、いつものように健康保険証を預かって、皆さま(医療機関等のスタッフ)が被保険者番号等を入力する。そうすると、その健康保険証がその時点で有効かどうかがすぐにわかります。
今(2020年11月時点)は、健康保険証が有効かどうかわかるのはレセプト請求時です。オンライン資格確認は、それが瞬時にわかるようになる仕組みということです。
次に、マイナンバーカードを使う方法です。マイナンバーカードであれば、支払基金・国保中央会(画像1、右側)から、その患者の資格情報が薬局・クリニックに届くことになります。
健康保険証とマイナンバーカードでわかることの違い
例えば私は厚生労働省の職員ですから、健康保険証で受診するなら、厚生労働省の共済組合の健康保険証を提示します。そこからわかるのは、私が「現在、厚生労働省の共済組合に入っているかどうか(有効かどうか)」ってことです。
一方で、マイナンバーカードの場合は支払基金・国保中央会に入っている私の情報がわかることになります。
– | 健康保険証 | マイナンバーカード |
---|---|---|
預かり・読み取り | 患者から預かり、職員が 被保険者番号等を入力する |
患者自身が 顔認証付きカードリーダーで読み取る |
わかること | その保険証が有効かどうか | 支払基金・国保中央会に 保存された資格情報 |
仮に私が治療途中で厚生労働省の共済組合から脱退して、協会けんぽの加入者になったとします。このとき、健康保険証で受診していた場合は、協会けんぽの方から発行される健康保険証が来るまで待たなければなりません(または「健康保険被保険者資格証明書」の交付が必要となります)。
しかしマイナンバーカードであれば、待つ必要がありません。
支払基金・国保中央会には私が何月何日まで厚生労働省の共済組合で、何月何日から協会けんぽの加入者ですという情報があるためです。これ(情報を取り込むこと)により皆さんが使っているレセプトコンピューターシステム(以下、レセコン)のデータが自動的に書き換えられるのです。
つまりマイナンバーカードの場合には、健康保険証に比べて非常に情報のやりとりが良くなります。被保険者番号等の入力などの手間が減るだけでなく、患者の最新の資格情報を得られるということになります。
そのため、すべての薬局・診療所・病院・歯科診療所に、マイナンバーカードを読み取るためのカードリーダーを置いていただきたいのです。
マイナンバーカードで患者の「私書箱」を確認
この話だけを聞くと「医療保険の事務作業を楽にするためのシステム」と捉えがちだと思います。
そういった利点はもちろんありますが、マイナンバーカードとオンライン資格確認が持つ可能性は、実はそれだけではありません。
1億2000万人分の「私書箱」を構築
画像1 オンライン資格確認とは(再掲)
支払基金・国保中央会にある「オンライン資格確認等システム」(画像1、右側)では、すべての保険者が持つ資格情報等を一元的に管理します。1億2000万人、すべての情報です。
つまり支払基金・国保中央会に1億2000万人分の、医療分野の「私書箱」をつくるということになります。
その私書箱にはすべて被保険者番号が振られています。私には私の被保険者番号が振られていて、それは誰のものでもない、私だけのものです。
そして、その私書箱には一人ひとり、すべてのレセプト情報が入ってきます。同時に、40歳以上の方なら特定健診の情報も入ってきます(画像2)。
画像2 薬剤情報・特定健診等情報の閲覧①
どの医療機関も必ずレセプト請求をしますから、その私書箱には「どこで、どんな治療を受けたのか」という情報がすべて入るわけです。そしてマイナンバーカードで受診した場合は本人確認をその場でできるので、それらの情報をすべて、患者の同意を得た上で、皆さんの薬局・病院で閲覧できるようになるのです(画像3)。
例えば歯科診療所であれば、(マイナンバーカードでオンライン資格確認をすることで)その患者が抗凝固薬を飲んでいるということがわかり、抜歯する際のリスクを把握することが出来ます。
画像3 薬剤情報・特定健診等情報の閲覧②
患者にとっては医療費支払い上のメリットも
また、他にも患者にとってはこんなメリットがあります(画像4)。
画像4 限度額適用認定証等の連携
病院に入院し、その後退院する際、まずはその費用の3割を支払う必要があるかと思います。大きな手術をして長期入院した場合など、3割であっても50〜100万円など、高額な医療費となることも少なくない。普通の人ですと、すぐには払えませんね。
しかし現在は、(あらかじめ限度額適用認定証等の交付を受けていない場合は)一度支払わなければなりません。その領収書をもとに高額療養費制度の申請を行い、差額(一定の金額(自己負担限度額)を越えた部分)を後日、保険者から振り込んでもらうことになります。
一方で、オンライン資格確認では病院の窓口で、自己負担限度額以上の金額を支払う必要がなくなります。
支払基金・国保中央会の中にある私書箱には、その患者の高額療養費の限度額等のステータス情報が入っています。患者自身がその情報を医療機関に伝えておけばいいわけです。
マイナンバーカードによる受診方法
画像5 顔認証付きカードリーダーとは
これらがマイナンバーカードによる受診で使う顔認証付きカードリーダーです。
- 富士通Japan株式会社
- パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社
- 株式会社アルメックス
これら3社のものがありますが、基本的に構造はすべて同じです。マイナンバーカードを置き、それ(券面情報)をカメラで読み取るようになっています(画像6、①)。
画像6 マイナンバーカードによる受診の流れ
(マイナンバーカードの読取りとは別に)もう1台カメラが付いており、目の前にいる患者の顔写真を取得します。これらのカードリーダーは、マイナンバーカードにある顔写真と、カードリーダーの前にいる患者の顔を照合することによって本人確認するのです。
本人確認に使用した患者の顔写真データは、認証が終わったらすぐに削除されます。顔写真が保存されることはございません。
また顔認証ではなく、4桁の暗証番号を用いた本人確認も可能です(画像6、②③)。
本人確認がされたら、次は支払基金・国保中央会にあるシステムから、その患者の被保険者番号等を受け取るのです。
次は、(被保険者番号をシステムが受け取っている間に)患者からの同意を取得します。「あなたのお薬情報を医療機関・薬局に提供することに同意しますか」「あなたの健診情報を提供することに同意しますか」ということです(画像6、④)。
ここで患者が情報提供に同意した場合は、先程お伝えした、その患者のいわゆる「私書箱」に入っている、薬剤情報や特定健診の情報を医療機関・薬局側で閲覧できるようになります。本来はそれで終わりです(画像6、⑤)。
ただし高額療養費制度を利用する方は、さらに限度額情報の提供に関する同意画面が表示されます(画像6、⑥)。そこで同意すると、自分のステータス情報が医療機関に届いて、限度額以上の支払いをしなくてもよくなります。
災害時はマイナンバーカード無しで「私書箱」を閲覧可能に
災害時には(オンライン資格確認を)どのように活用するかといいますと。
画像7 災害時における薬剤情報・特定健診等情報の閲覧
災害時は、主治医の方以外が被災者の方を診ることになります。お医者さんも患者も互いに初めての際、患者から持病は伝えられたとしても、飲んでいるすべての薬の名前を正確に伝えることは難しいでしょう。
こんなとき、オンライン資格確認の仕組みを使って、レセプト情報からその患者が飲んでいる薬を検索し、処方することができます(画像7)。
災害時は、マイナンバーカードを持たず、着の身着のまま避難します。
先程お伝えした「私書箱」内の情報は、平時はマイナンバーカードによる同意があって初めて利用可能です。しかし災害時に限って、被災地を支援する医療機関・薬局には開放します。
そうすると開放された診療所・病院では、患者が来たら、患者の氏名や住所を元に、その患者の私書箱を探り当てることが可能です。そこにある薬剤情報を見て、その患者が飲んでいる薬を処方する、ということができます。
オンライン資格確認を医療機関が実施するには
ここまでオンライン資格確認のメリットばかりお伝えしましたが、(医療従事者の)皆さまにもやっていただきたいことがございます。それは、まずはこの顔認証付きカードリーダーを申請していただくということです。
顔認証付きカードリーダーを無償提供
画像5 顔認証付きカードリーダーとは(再掲)
この申請について、実は今回、私達はこのカードリーダーを無償で提供します(画像8)。つまり皆さんのご負担はない。
- 薬局:1台
- 診療所:1台
- 歯科診療所:1台
- 病院:3台まで
画像8 「加速化プラン」を踏まえた追加的な財政補助
第一段階:パソコンの購入とシステムとの繋ぎこみ
しかし、カードリーダーを申請するだけではシステムは動きません。(オンライン資格確認の利用には)三段階あります。
まず1番簡単な第一段階は、顔認証付きカードリーダーの申請と、それを動かすパソコンの購入です。そのパソコンを支払基金・国保中央会のシステムとお繋ぎいただきます。大変申し訳ないですが、これには(医療施設の皆さまの)ご負担が必要になります。
これをやると、患者がマイナンバーカードで(資格情報を)照合できるようになります。ご購入いただいたパソコンに、患者の被保険者番号や資格情報等が届くのです。
ただしまだレセコンにつながっておりませんから、取得した情報をもとに自動で書き換えるといったことはできません。
第二段階:レセコンとの繋ぎこみ
第二段階は、第一段階でできあがったシステムと、レセコンとを繋ぐということになります。
これをすることで、患者の資格情報が皆さんのレセコンで取り込むことができるわけです。
しかしまだ電子カルテにはつながっておりませんから、取得した患者の「私書箱」にある情報を、電子カルテに取り込むことはできないのです。
第三段階:電子カルテとの繋ぎこみ
(最後の)第三段階が、電子カルテのシステムに、第二段階までのシステムを繋ぐということになります。
ここまでやっていただけると、先ほどお伝えした、患者の「私書箱」に入った情報が、(電子カルテを通じて)皆さんの診療室のパソコンでも見られるようになります。
システム改修等の費用も一部を助成
画像8 「加速化プラン」を踏まえた追加的な財政補助(再掲)
これら、システムの改修や繋ぎこみについては、申し訳ないですが皆さまにてご対応いただきます(画像8)。
ただしこのシステム改修等のための費用につきましても、令和3年3月末までに顔認証付きカードリーダーを申し込んでいただければ、全額を補助いたします(事務局注:下記の上限付き)。
- 病院(1台導入):上限額210.1万円
- 病院(2台導入):上限額200.2万円
- 病院(3台導入):上限額190.3万円
- 診療所・薬局:上限額42.9万円
ベンダーでは(これらの上限を考慮して)対応するようなサービスが提供されておりますから、令和3年3月末までに顔認証付きカードリーダーを申し込んでいただければ、出来る限りご負担なく対応できるということになります。
オンライン資格確認の未来予想
画像9 オンライン資格確認の今後
冒頭で申しましたが、オンライン資格確認では、1億2000万人の国民皆保険でカバーされている皆さまの健康情報に関する私書箱を構築しています。
ここに保管する情報の活用により、診察の仕方が変わりうるだろうと思うのです。このインフラを使えば、他にも医療上応用できるんじゃないかと私達は考えています。
令和4年夏を目処とした薬剤以外のレセプト情報の提供
その応用の1つが、薬剤情報以外にも「どこで、いつ、どんな手術・検査をしたのか」といった情報を提供できないかということです。例えば開腹手術をしたのか、内視鏡手術をしたのか。また、検査結果はわかりませんが、CTなのか、MRIなのか、腹部なのか胸部なのかという情報がレセプトには存在しております。
こうした情報を提供することで、診察室でもお役に立てていただけるんじゃないかと思います。今後レセプト情報の中から対象となる情報を拡大して、令和4年夏を目処にお届けできるように考えております。
電子処方箋としての活用可能性
医師の皆さんの電子カルテには「この薬を処方します」というデータが入っているはず。
これを先程の、患者の「私書箱」に送っていただければ、(処方せんを)紙でもらわなくとも、マイナンバーカードを使って、処方された薬剤情報を薬局で取り出し、調剤することができる。
自動的に処方情報がリアルタイムで共有されることになるわけです。これを電子処方箋と言い換えてもいいんですけれども、そうした仕組みに変わっていくのではと思っております。
あらゆる健康情報を踏まえた上での診療が可能に
また現時点では特定健診の情報のみが対象ですが、通常の定期検診の情報も格納されれば、40歳未満も含めてすべての患者の健診情報が閲覧できるようになります。
結果的にはすべての方がマイナンバーカードで受診することで、様々な健康に関する情報が先程言った「私書箱」に入ってくる。そしてそれを使って、皆さんの診察室での情報が更に高まる。
そういった基盤にオンライン資格確認は今後なっていくだろうと考えております。
オンライン資格確認への第一歩、カードリーダーの申込みを令和3年3月末までに
今回ご説明したような仕組みを構築していきますので、(医療従事者の)皆さんにはぜひ、顔認証付きカードリーダーの申込みをやっていただきたい。
画像10 医療施設のアカウント登録
>> 【オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係】医療機関等向けポータルサイト
申込みはこちらから行っていただけます(画像10)。
先ほどお伝えした通り、令和3年3月末までにお申し込みいただければご負担がなくなりますので、ぜひご登録をお願いしたいと思います。
私の説明は以上でございます。ご清聴ありがとうございました。
冒頭でもお伝えしましたが、当日のセミナーでは、下記のパートも実施しております。
- メドピア社 代表取締役CEO 石見(医師・医学博士)の講演
- 山下氏と石見との対談
- セミナー参加者からの質疑応答
特にセミナー参加者からは非常に多くのご質問をいただき、直接山下氏にご回答いただくことで、大変ご好評をいただきました。今回ご紹介できなかった、より細かい部分に踏み込んだ解説もいただき、大多数の医療従事者にとって必見の内容となっております。
その様子は下記のページにて無料配信中です。ぜひお気軽にご視聴ください。